古典的な遺産小説の名作『大いなる遺産』

「遺産相続」は人間ドラマの大きなテーマになっており、「遺産もの」というジャンルが成り立つくらい、数多くの小説や劇・映画作品が作られています。

特に19世紀以降、資本主義社会になって以来、遺産相続のドラマはよりポピュラーになりました。それは王侯貴族や一部の上層階級の人たちだけの話でなく、より多くの一般大衆の人たちが「自分にも関係のある話」として捉えられるようになったからでしょう。

そんなわけでこのコラムでも遺産を題材にした作品をご紹介していきたいと思います。今回は『大いなる遺産』(原題「Great Expectations」)です。
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チャールズ・ディケンズの代表作

そのものズバリのタイトルのついたこの作品は、「遺産もの」の古典的な小説と言えるでしょう。作者は19世紀英国の国民的作家、チャールズ・ディケンズ。さしずめ英国の夏目漱石とも言われる人です。

これは「二都物語」「デビッド・コッパーフィールド」「オリバーツイスト」「クリスマスキャロル」などと並ぶディケンズの代表作に数えられています。
 

波乱のストーリー

脱獄囚・富豪のマダム・高慢な少女

時は19世紀前半。現代から遡ること約200年前。英国の片田舎。父と母とを失い、年上の姉とその夫に養われていたピップ少年は両親の墓参りの途中、脱獄囚に出会い、食物とヤスリを持って来いと脅かされます。

ピップはその約束を果しますが、脱獄囚は逮捕され、再び監獄に送られてしまいます。

その後、ピップは近くの屋敷に住んでいる気のふれた富豪のマダムの遊び相手として呼ばれました。そこには彼と同い年の美少女(マダムの養女)がいて彼を案内した。彼女は高慢で、態度も横柄。明らかに上から目線でしたが、ピップのほうはそんな彼女に一目ぼれしてしまいます。

彼は少女に会えるのが楽しみで屋敷へ通いますが、14歳の誕生日が来て、義兄に鍛冶屋の弟子となり働き始めるのをきっかけに、この訪問を止めることになります。もちろん、少女に未練を残しながら。
 

ミステリアスな遺産を受け継ぐ

それから6年後、20歳になったピップのもとにロンドンから弁護士が訪ねて来て、彼が莫大な財産の相続人に指定されたこと、ロンドンに出て紳士となること、その贈り主がだれなのか、将来その人自身が現われるまで問わないこと、「ピップ」という名前を絶対に変えないことなどを告げました…というのがストーリー前半のあらましです。
 

後の時代のドラマづくり・キャラクターづくりのお手本

この財産の秘密をめぐるミステリー、サスペンスシーン、そして恋愛ドラマあり、ヒューマンドラマありで、現代のエンターテインメント小説の要素をすべてよせ鍋のように投入してかき混ぜた波乱万丈の物語が楽しめます。

また、主人公のピップ少年を軸に多くの個性的な登場人物たちが活躍し、後の時代のドラマづくり・キャラクターづくりのお手本にもなっています。
 

物語の背景

資本主義社会に対する風刺

秀逸なストーリーテリングで知られる作品ですが、この小説の背景にあるのが、当時の大英帝国――現代につながる資本主義社会・大衆社会に対する鋭い風刺です。このお話の中でも貧しい労働者階級と富める上流階級との格差、それにこだわらざるを得ない登場人物たちの気持ちが鮮やかに描かれており、それがこの遺産をテーマに動いていく物語の大きなエッセンスにもなっています。

新聞記者の目

ディケンズはもともと新聞記者で、この「大いなる遺産」に限らず、どの作品にも独特のユーモアとウィットに富んだ社会風刺を書き込んでいます。それをストーリーに織りこむことで独自の文学世界を築き上げ、文学史に名を残す作家となったのです。
 

遺産とは何か?

財産だけが遺産ではない

そしてこの物語を通して、遺産とは何か?ということを、いろいろな角度から考えられます。文字通り、財産=お金として捉えることのほかに、その遺産がどのように作られたのか、どんなストーリーが遺産の陰にあるのか。

また、ピップにとって「遺産」とはそのお金のことだったのか、それとも別のものだったのか? 登場人物ひとりひとりが「遺産」に絡んでいるとも言えるでしょう。それは愛情だったり、家族だったり、夢や希望だったり…。そんなことを考えながら読んでみるとより面白いと思います。
 

映画でも楽しめる

なお、この物語は1946年のデビッド・リーン監督作品をはじめ、何度も映画化されています。最近では1998年にはイーサン・ホークの主演でハリウッド映画として、2012年にはイギリス映画として公開されました。小説を読むのは時間がかかるから嫌だと言う人はこちらでも楽しめます。

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