尊厳死宣言公正証書とは?

過剰な延命治療によって自然の死を迎えられない人も増えてきています。自然な形で死を迎えたいと願う人が多くなっています。最期を自分で納得のいく姿で迎えたいという願いの表れとして、「尊厳死宣言公正証書」を作成する人もいます。

尊厳死を望む人が増えている背景

近代医学は、患者が生きている限り治療を施すという考え方に基づいています。1分でも1秒でも長く生きることが、可能性への追求として要求されています。しかし、延命治療に関する医療技術の進歩によって、植物状態に陥っても長年生存するケースが少なからず出てくるようになりました。植物状態になって長年生きている実例がきっかけとなって、延命だけを目的とした治療が本当に患者の利益になっているのかという疑問が生じるようになりました。延命がむしろ患者に苦痛をもたらしているのではないか、患者の尊厳を害しているのではないかという問題意識が生じるようになりました。尊厳死とは、回復の見込みがない末期状態の患者に対して、生命維持のための治療を差し控えたり中止したりして、人間としての尊厳を保ったまま死を迎えるようにさせることと、一般的に解されています。過剰な延命治療が患者の自己決定権を損なっている現状があるとの認識から、尊厳死は容認されるという考え方が広がってきています。

尊厳死宣言公正証書とは?

患者が 尊厳死を望んでいても、医療現場で尊厳死がすんなりと認められるという状況ではありません。医療とは最期まで治療を施すのが基本であるという姿勢で、治療に全力で当たっているスタッフは多いのが実情です。親族の間でも、死を前にした時には心情が揺れ動きます。延命治療が始まった後で中止を申し出るというのは、実際には大きな困難が付きまといます。 そのような現状を踏まえ、過剰な末期治療を施されることによって近親者に物心両面から多大な負担を強いることを懸念して、自らの考えで尊厳死に関する公正証書作成を嘱託する人も出てくるようになりました。 尊厳死宣言公正証書とは、自らの考えで尊厳死を望むことを公証人の前で宣言し、公証人がこの宣言を聴取して、その結果を公正証書にするというものです。基本手数料は、執務に要した時間が1時間以内であれば1万1000円、1時間を超えて2時間以内ならば2万2000円です。

尊厳死宣言公正証書を作成する場合の留意点

1.尊厳死宣言公正証書の核心となるのは、延命治療の差し控えや中止の宣言と苦痛除去のための麻薬などの使用による死期の早まりの容認です。苦痛を除去するための治療については失念している人が少なくありませんが、この点も含まれることに注意しましょう。

2.植物状態になったらすぐに治療を中止することまで要求するのは、現状では無理です。尊厳死が許容される場合として大方の意見が一致しているのは、医学的な見地から不治の状態にあり、死期が迫っており、治療が人工的に死期を引き延ばすだけであることが明白であると、2人以上の医師が診断した時です。植物状態になっただけでは、その状態がある程度継続していても、尊厳死を許容することには、現状では問題が多く、公正証書を作成するのは無理とされています。

3.配偶者と子どもの同意を必ず得ておきましょう。医療現場では、延命治療の差し控えや中止に当たって家族の了承も重んじられています。公正証書作成にあたっては、家族全員の同意を得ておくようにしましょう。納得しない人が1人でもいたら、作成は見合わせることが大切です。

4.延命治療の差し控えや中止を行ってくれた医師が捜査や刑事訴追の対象にならないように望む旨を明記してもらいましょう。近年、患者の自己決定権を尊重しようという動きは、医療現場でも広がっています。しかし、統一的な見解が示されていないため、刑事訴追を懸念して、尊厳死に対して過剰に拒否的な態度をとる医師もいます。医師の免責を公正証書に明記しておきましょう。

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