「相続させる」と「遺贈」の違いを分かりやすく解説
「相続させる」ということと、「遺贈する」の違い
遺言書作成の際に、ちょっとした言葉の違いのように見えるかもしれないこの二つの言葉、実はまったく違う意味を持つものなのです。ですから、遺言書の作成を考えている方には注意が必要です。
相続と遺贈の違い
相続とは、被相続人の地位をそのまま引き継ぐことをいいます。
これに対して、遺贈とは、ある財産を誰かに相続財産を与える行為をいいます。
もっとも、遺贈でも包括遺贈という場合には、実質的に相続とほぼかわらない状況になります。
両者とも、何かを引き継ぐという点では共通です。
しかし、地位を承継するというか、財産を受けるというか、で実は違いがあります。
また、相続は相続人にしかできません。この点、遺贈は相続人にも、それ以外の人にもできます。
ですから、孫に遺贈することはできても、相続させることはできません。
さらに、相続は相続人しかできませんから法人は相続できません。しかし、遺贈では法人も財産を承継することができます。
もちろん相手は人であることが大前提にあります。かわいいわんちゃんには残念ながら財産を相続、遺贈することはできません。
そして、
遺言書での書き方の違い
以上の違いから、遺言書では一般的に以下のように書くことになります。
相続人に対して財産を渡す場合には、「相続させる」と書きます。
相続人以外に財産を渡す場合には、「遺贈する」と書きます。
本来なら、相続人に対しても、遺贈すると書いてもよいといえそうです。
しかし、公証役場では「相続させる」というように文言を変えるように進められます。
「相続」と「遺贈」は不動産登記名義移転で違いがでる
「相続させる」か「遺贈する」かで、不動産登記名義移転について違いがあります。
「相続させる」という場合には遺言執行者は、不動産登記名義移転は遺言執行者の名で行うことはできません。
ですから、この場合相続人の委任状をもらって遺言執行者は手続きをする必要があります。
これに対して「遺贈する」では遺言執行者は、名義移転が遺言執行者の名で行うことができます。委任状は不要です。
そもそも『相続させる旨の遺言』って何でしょうか?
これは、民法上条文がないため、最高裁まで争われたことがあります。
「特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言は、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情のない限り、当該遺産を当該相続人をして単独で相続させる遺産分割の方法が指定されたものと解すべきである」
最高裁判所は以上のようにいいました。
内容が難しいので、すこし噛み砕いてこの判例を読み解いてみますね。
『相続させる』という遺言があった場合には原則は遺産分割の方法が指定されたものとして扱いましょうということのようです。
遺産分割の方法が指定されたとは、ある特定の不動産は相続人Aが単独の所有にするとか、AとBが共有で所有するとか、どの財産をどの割合で取得するかということです。もちろん、土地を分割して取得するということも、売却してその代金を分割して相続するということも遺産分割の方法の指定といえます。
ただし、よく考えると、この内容はいわゆる財産を移転する遺贈とほぼ同じことになります。
相続は、死亡時から財産を承継していること
さきほどの最高裁判例は
「特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言があった場合には、当該遺言において相続による承継を当該相続人の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、当該遺産は、被相続人の死亡の時に直ちに相続により承継される。」
とも判断しています。この意味も重要になってくるので、確認しておきたいと思います。
内容がすこし難しいのですが、相続をさせる旨の趣旨を受けた人は、一度共有名義に登記をしたうえで、そこから所有権移転登記を受けるといった面倒なことをせずとも、被相続人から直接登記を受けることができるのです。
もう少しだけ噛み砕きますと…
もし遺言がなければ、不動産は共有の分割登記がされます。遺産分割協議が整って誰かのものにするにあたってはさらに所有権移転登記が必要です。
しかし、「相続させる」という遺言があった場合には、遺産分割の方法の指定と原則考えられ、上述の共同相続人全員の共有登記を経る必要はなくなるということです。
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